今年度は主として、日本の事例については組織の代表者等を対象とした面接調査を、イギリスの事例については文献研究を行ったが、主たる研究対象をコープかながわのワーカーズ・コープから、福祉分野の労働者協同組合の最大勢力である神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会に変更した。したがって、今年度対象とした事例は、神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会の福祉サービス分野のワーカーズ・コレクティブと三重県高齢者生協である(前者については97年9月から98年3月にかけて計4回、後者については98年1月に1回の調査を行う)。 日本の福祉サービス分野の労働者協同組合は、首都圏、特に神奈川県を中心に発展しており、その担い手のほとんどは女性である。ワーカーズ・コレクティブ連合会所属の組織のなかには、厚木市のケアセンターあさひの「きりん」のように施設の運営を自治体から全面委託されているワーカーズ・コレクティブがあり、公協コンプレックスの可能性を展望させる事例として注目に値する。三重県高齢者生協は地域の高齢者にたいする在宅福祉サービス、老人給食の宅配事業等を行っているが、高齢者の雇用創出もめざしており地域社会の多様なニーズに対応した多機能的事業体として興味深い。 今年度の研究で得られた知見であるが、福祉サービス分野の女性の労働者協同組合の発展の社会経済的背景として地域の福祉ニーズの増大と女性の就労ニーズを指摘することができる。すなわち、福祉協同組合は地域における福祉ニーズの充足と雇用創出とを有機的に結び付ける可能性を有しているといえる。イギリスの介護協同組合の先行研究でも同様の点が指摘されている。
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