本研究の目的は、日本における地域生協を出自とする労働者協同組合の事例を対象に、生協の機能が地域福祉に拡大していった社会経済的背景と労働者協同組合が福祉コミュニティの形成を担う意義を考察することにある。 上記の目的を達成するために、三重県高齢者生協と生活クラブ生協を出自とする在宅福祉分野のワーカーズ・コレクティブの代表者、組合員に対するヒアリング調査を行った。また比較研究の観点から、イギリスのケア・コープに関する現地調査を行ったが、この調査が日本の事例研究にきわめて有益な視点を与える結果となった。 本研究を通じて、高齢者生協もワーカーズ・コレクティブも、地域社会の高齢化と組合員の就労ニーズが設立の主たる背景であることが明らかとなった。イギリスのケア・コープについても地域の失業問題と高齢化が設立の背景となっている。特にイギリスのケア・コープの場合、組織の意思決定に労働者のみならず利用者が酸化することによって、高い質のサービスを実現している。すなわち、協同組合組織の参加的構造は、福祉コミュニティ形式において、参加を通じたサービスの質の保証という意義を有しているといえる。高齢者生協もワーカーズ・コレクティブも、ケア・コープと類似の参加的構造(前者は労働者と利用者双方の参加、後者は労働者参加が中心)を有しており、参加を通じたサービスの質の向上をめざしている。以上のように、地域住民が直接、サービスの提供団体の運営に参加しうる点、そうした参加的構造が福祉サービスの質の保証にもつながりうる点に協同組合の意義があるというのが本研究で得られた知見である。 なお予定していた組合員に対するアンケート調査は、調査対象団体の都合もあり、大幅に実施が遅れてしまったが(本年3月25日実施)、調査結果を集約後、日英比較の視点も含めつつ論文として発表する予定である。
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