当初の研究実施計画に従い、本年度はまず日本における近代家族的観念成立過程の時期区分を設定し、史料収集・分析の指針とする作業から開始した。その結果、従来日本の家族社会学においては、この時期区分の問題に関し、とくに法制史や教育史、人工史などの長年の研究成果の蓄積が十分に生かされていない点が明らかとなった。そこで、主にこれまでの人工史的研究の成果により、日本における「実態」としての近代家族の出現期を、1920年代の都市部での新中間層の析出過程とほぼ特定した上、本研究の主眼である「概念」としての近代家族の登場・成立期をそれ以前に限定し、その下限を上記の諸分野の成果に基づいて探求したところ、ほぼ1900年前後の、法制史にいういわゆる「明治民法成立期」であることが確定された。今年度はこの下限期から遡って、上述の時期区分を、家族論を含む日本社会学史上の画期としての三つの時期すなわち、1.明治10年頃までの啓蒙思想期、2.明治10年代を中心とした自由民権思想期、そして3.明治20年代のいわゆる社会改良期以降の時期に区分する知見を得た。またとりわけキリスト教思想史との関連から、このうち1.と3.の時期の分析が今後の研究の中心課題となることも明らかとなった。以上に基づき、今年度は研究対象の時期を上記のうち史料入手条件などからとくに3.の時期に絞りこみ、とりわけ明治民法の成立に至る国家側の教育や法制を通した新しい「家」のイデオロギー確立と強要の過程、及びそれに対応してキリスト教側から発生した「教育と宗教の衝突」論争を通して見出せる近代家族観の特色に焦点を併せて考察を行った。この成果は「研究発表」欄に記した論文として発表予定である。今後は引き続きこの時期のキリスト教ジャーナリズムや文学、女子教育思想などの領域の言説の解明を進め、1.の時期へと遡及しつつ研究を継続したい。
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