研究概要 |
平成9年度には、本研究に関連する業績としては、雑誌論文「自己欺瞞について一他者の感情性の誤解、その理論モデル、厚い記述、解釈」を公刊できた。これは、こころの病気に陥った人の主観的・社会的状況を分析する基礎概念として、J.-P.サルトルの業績から自己欺瞞(bad faith,mauvaise fois)の概念を取りあげ、日常生活の事例に適用を試みたものである。また、この夏には、その続編として「自己欺瞞とダブル・バインド-論理階型論による概念の整理と事例解釈」を執筆し、これは平成10年度に公刊される予定である。 このように本年度に公刊・執筆した論考のなかには、本研究のテーマである精神障害者福祉のフィールドワーク研究そのものについての作品は含まれていないが、研究活動としては、従来通り、名古屋・大阪での患者会活動の参与観察を継続し、遠隔地の調査としても、秋に沖縄県・那覇市での実践を、数日間、観察してきた。 名古屋での成果は、患者会メンバー自身による精神障害者小規模作業者の訪問が行われ、その時の感想をめぐる議論(フリー・ト-ク)を、二時間程度、録音できたことである。精神保健福祉の分野では当事者やその家族のプライバシー保護のために、このような業界の内情をめぐる微妙な話題に関してのデータを詳しく記録できる機械は滅多となく、今回は、当日の話題の進行からその録音テープの内容の筆記まですべてわたしが関与することができたので、分析を実証的に進めることでの研究の進展が期待できる。また、夏に訪問した沖縄では、名古屋・大阪と違って病気そのものを当事者・家族がオープンにし、社会にアピールする形で支援を取り付ける運動が行われていて、これまで集めてきたデータに対する比較対象としては最適であり、今後の調査への取り組み次第で大きな理論的実りを生むことが期待できる。
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