今年度の本初究の研究実績としては、(1)前年度から収集してきた史資料の解読、(2)各種の統計からデータベースの構築、(2)それらを踏まえた上での論文執筆、に主に取り組んだ。 すなわち、医療職をとりまく諸集団の資料(前年度の『中外医事新報』と『医海時報』の2誌に加え、日本医師会の機関誌『医政』『日本医師会雑誌』)を収集・複写し、医師養成に関するイッシューを中心に解読を行なうと同時に、『文部省年報』『内務省衛生局年報』などの医療三職に関する様々な基礎資料からマクロなデータベースを構築、また各大学史などから医学系諸学校の教官個人の学歴・履歴・在任年数などを収集し、医療現場と教育機関との移動についてのデータベースを作成した。さらに、『杏林要覧』(明治44年)、『大日本紳士録』などをソーシャル・インデックスとして、医療職の社会階層としての形成過程についての基礎データを表計算ソフトに入力した。 以上の作業を踏まえ、医療系人材のキャリア・パスと医療マーケット間の移動についての論考、明治期に形成された開業医集団を中核として大正期に登場した中産階級としての医師の分析、昭和戦前期の「臨時附属医専」を中心に近代化過程における軍医増産の社会史に関する論文を、それぞれ執筆(中)した。共通した分析視点としては、医療三職の養成システムと適正な「養成数」に関する政策、それらに対する政府(文部省・内務省衛生局=厚生省)・日医などの専門職団体・諸政党など様々な政治的アクターのイッシューに焦点を絞り、考察を進めた。
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