本研究は、戦間期日本の高等教育卒業者の就業・雇用形態に焦点を置き、その実態をできうる限り信頼のおけるデータを収集・発掘することで明らかにしていくことを目的とするものである。そのために、(1)高等教育機関の卒業生名簿を利用しての高等教育卒業者の職業キャリアの分析、および(2)職場内での高等教育卒業者のキャリアおよび彼らに対する処遇の分析、という教育機関と職場との2方面からのアプローチをとることを予定した。(1)に関しては、名古屋高等商業学校卒業生についてのケーススタディをおこない、戦間期において卒業後4年間の離転職率が10〜20パーセントであること、後の卒業生ほど離転職率が低下すること等の知見がえられた。この知見は戦間期に高等教育卒業者の「新卒」採用とその後の長期雇用の制度化が進んだとする従来の知見を支持するものである。(2)に関しては、企業データの直接の利用が不可能であったため、代替的に既存の社会調査データの再分析による高等教育卒業者のキャリア分析を現在おこないつつある。さしあたって得られている暫定的な知見によれば、(1)の知見とある程度は一致する傾向がみられるとはいえ、戦間期の卒業生のキャリアが実に多様であり、より詳細な分析の必要性が明らかになりつつある。いうまでもなく、卒業者のキャリア分析を広範囲・網羅的におこなうことは個人研究者の手に余る作業であり、共同研究チームを編成しての作業が必要となる。今次の研究は、将来の共同研究を視野におき、若干の高等教育機関等のケースを取り上げた、予備的な性格をもつものである。
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