本研究は、授業において意味と関係が構成されていく際のコンテクストを明らかにすることを目的としている。本年度は、そのようなコンテクストに関する理論的枠組みを提示するとともに、その枠組みを使いながら、分数を中心に算数・数学の学習・指導の批判的検討を行った。具体的な成果は以下の通りである。 1.学校・教室のコンテクストの理論的検討-エンゲストローム(Y.Engestrom)の「活動システム・モデル」を中心に、意味と関係の構成のコンテクストについて理論的検討を進めた。前提作業として、エンゲストロームの主著“Learning by Expanding:An Activity-theoretical Approach to Developmental Research"(1987)の翻訳を共同で行った(1999年3月刊行予定)。また、それが現代日本の学校・教室のコンテクストに対して有効に適用できるようにするために、学校実践や授業実践についての種々の文献・ビデオの分析を通して、モデルの具体化をはかった。 2.分数概念の指導プランの作成-「量分数」と「分割分数」の対立を調停する「分割量分数」の概念にもとづいて、意味構成のコンテクストと関連づけられた分数概念の指導プランを作成した。 3.分数の授業の分析-上記の指導プランにもとづく分数の授業を記録し、対象、道具(とくに具体物やモデル)、子どもが実質的に参加している文化的共同体、教室のルール、教師と子ども・子ども同士の役割分担といった要素に着目して分析した。
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