1、各種出版されているフルートの基礎的な教則本の奏法についての記載には、歯とリップ・プレートの角度や位置関係について正しく記述されたものをみつけることはできなかった。日本で出版されている教則本の記載も西洋人の歯列をそのまま流用し掲載したにすぎないようである。奏法の一助とするためにもある程度の信頼性のもてる記載を行うことを目的に、来年度は顔面横方向から吹奏時のレントゲン撮影を行うことを計画中である。 2(1)下前歯アダプターを製作し、試着試奏を行いながら改良を試みている。 (2)下前歯アダプターの使用により音色の向上する理由を研究者はこれまで2点でとらえていたのだが(第一点は、フルート演奏において最も重要であるとされてきた前歯列の矯正により口腔内の気流がリップ・プレートのエッジ上の一定の位置に定められること。第二点はアダプター自身の素材によってもたらされる音色の向上)、試作品製作の過程で上記2点の役割以外の要素が音色の向上に関係しているのではないかと考えるようになった。歯列の矯正という目的で製作したアダプターが、異質の素材を前歯の上部にのせるということで結果的に「かみ合わせ」の程度を変える役割をしたということである。「かみ合わせ」の程度がフルート演奏に与える影響は予想以上に大きいのではないか。 (3)歯科医との話し合いの中で、日本人と西洋人のかみ合わせにはかなり大きな相違点があること。また、近年は下顎の退化(食生活等の変化に伴う)が予想以上の速度で進んでいるために吹奏上に大きな問題が起こっているらしいことがわかった。 3、以上のことを踏まえて、次年度の研究ではフルートを演奏している人々の歯形をできるだけ多く収集し、その分類を進めた上で実験用リップ・プレートの試奏実験により、個人差に適合したリップ・プレートのデータが得られればと考えている。
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