方言札とは、1907年頃に出現し、沖縄口(沖縄方言)を話した児童・生徒に与えられた罰札であり、沖縄の小学校及び中等学校で児童生徒に標準語を話させるために活用されたものである。今年度の研究では、最も強制力をもっていたとされている時期の方言札の機能を明らかにすべく、国家総動員体制下における学校生徒及び地域住民に対する標準語教育について解明した。その概要は以下のとおり。 (1)沖縄県庁は、日中戦争の全面的な展開のもと、沖縄口を否定し、標準語励行運動を推進した。沖縄口を話すことは、日本精神に反する「陋習」なのであり、標準語を習得し励行することこそが日本精神発揚なのである。標準語励行は、まさに天皇制イデオロギーと直結していたのである。 (2)標準語励行運動において、学校は児童に「正しい」標準語を教育する機関であった。『会話読本』などにより、沖縄口を標準語に言い換えさせつつ、方言札によって、沖縄口を排除し標準語を話すことを強制したのである。同時に学校は、母姉学校などの開催によって、地域へと標準語を普及していく不可欠の機関でもあった。その際、児童を標準語普及の街頭指導にあたらせるなど、家庭・地域との接点として注目していた。 来年度以降の研究では、それぞれの学校で方言札がどのように存在していたのかを調査していくことにより、近代沖縄における標準語教育の実態を解明していきたい。
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