今年度の研究では、現象としては顕在化しにくい心理トラブルに関する内外の研究成果を精神医学及び心理治療の観点から整理し、学びの核心(コア)である教室談話を、発達援助セラピー(活動理論に基づく心理治療理論)の視界から解析し、潜在化している心理的トラブルを癒す指導・支援理論を構想することを中心に活動を推進した。それと並行しながら、現在、教室経営への危機介入の要請に基づき、広島市内の公立小学校及び中学校の臨床教育学的なフィールドワーク(状況に参加しながら発達を援助する活動)を実行し、教室においてさまざまな困難を抱えた児童・生徒たちの自立支援や学習支援の典型事例を集積しつつある状況にある。その成果の一部は、理論的には、「ヴィゴツキ-理論のもうひとつの地平」(広島女子大学紀要)や、「ヴィゴツキ-と精神分析学-フロイト=マルクス主義批判から臨床教育学へ」(日本教育学会年次大会口頭発表)及び「認知構成主義と学習理論」(日本教育心理学会指定討論発表)で公表し、実践的には、「学びのひろがる教室へ-こころときめく学習集団は蘇るのか」(『生活指導』:明治図書)や、「“アトリエ"の多声楽(ポリフォニ-)-「機能」の発達観から「自我」の発達観へ」(『生活指導』:明治図書)などで公表した。特に、授業における自我形成という課題は、内面と外面との乖離が著しい児童・生徒たちの心理治療のコンテクストでもさらに深く考察されなければならないことが確認できた。
|