本年度は、教室談話のセラピー効果を臨床的・実証的に考察するために、次の二つの視界から研究を総括した。第一は、研究方法論(バック・グラウンド・セオリー)の練り上げである。具体的には、L.S.ヴィゴツキーの学位論文『芸術心理学』における発達構成原理を抽出する基礎作業を進めながら、文化歴史学派の活動理論における美的情動理論、美的芸術理論、美的治療理論の位置づけを検討した。(この成果は来年度の日本教育学会の学会誌『教育学研究』に投稿予定である)。第二は、実践現場での臨床教育学的な調査活動の分析と総括である。広島市内における五つの公立小学校をはじめ、一つの公立幼稚園、一つの公立中学校に継続的に実践構想共同参画方式(CICP)で共同研究を進めた。特に、一つの公立小学校では、小学校五年生の学級にパニック障害の児童、学習障害の児童、不登校傾向の強い児童が在籍し、学級崩壊の危機に瀕した状況への研究参画を実行することができた。こうした危機への働きかけ(crisis intervention)を、個別の教育相談、教室談話の臨床教育学的分析、実践方法の具体的な共同構想などの一連の過程で遂行することができた。子どもと教師、あるいは子ども同士の対話から生起する<発話>の文脈的、文化的、社会的、歴史的な分析を、教師と共同で遂行することを契機に、教師の指導・支援の姿勢が大きく変容していく過程が確認された。(この一連の共同参画研究の過程は、来年度の日本教育方法学会の学会誌『教育方法学研究』に投稿予定である)。
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