本年度の研究では、90年代のドイツの教育政策の展開について、ドイツ社会民主党の教育政策を中心にみてきた。さしあたって、1994年の「大選挙年」を起点にしているのであるが、この年は、各州議会選挙、欧州議会選挙、大統領選挙、ドイツ連邦議会選挙と行なわれた。この選挙の結果は、おおむね各州レベルでは、社会民主党(SPD)の勝利、連邦レベルではキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の勝利ということであった。この他、旧東独地域で、旧共産党(統一社会党)を母胎とする民主社会党(PDS)の議席獲得も大きな特質である。多党化、政党の専門化ということが、ドイツの政治学研究者から指摘されているが、これまでの二大政党とキャステングボードを握る第三政党という戦後50年近く続いてきた図式が崩れ欠けているのである。 こうした選挙に際して、各政党は公約である選挙綱領を持って望むわけであるが、教育政策においてはどのような主張が行われたというとSPDは、70年代からの伝統的な主張である教育の機会均等、職業教育の価値向上、公共的市民性の教育にくわえて、多文化社会状況を反映させた社会的統合のための教育、さらに教育行政では州集権から自治体・学校中心の教育行政、不況への対応としての職業教育の強化などを主張した。総選挙後、深刻化する不況に対して、2/3以上の州議会で与党であるSPDは、教育政策では、職業教育の一層の強化を打ち出し、党内に専門委員会を設置し、政策を提起していく。これについては、論文「転換期のドイツ職業教育とドイツ社会民主党の政策」にまとめた。 1998年は、総選挙が行われる。再び選挙公約の策定、教育政策綱領の改訂作業も始まっている。研究課題を解明するにあたって、十分踏まえて継続していく。
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