武士階級における数理能力の意義を考察するための基礎的研究として全国藩学数学関係学科設置状況のデータベース化(総論部)の継続と事例研究(各論部)とを併用して行った。 1.東海道における藩学数学関係学科の設置状況 近世の武士階級における数理能力とはどのような位置づけや学習形態が形成されていったのかを考察するためには、設立時期を考慮した藩学数学関係学科の教育課程整備過程、数学師範の動向、藩士の数学修得状況などを総合して実証せねばならない。そのための基礎的作業の一つとして旧東海道に属する諸藩藩学の数学関係学科に関する事項を史料『日本教育史資料』(文部省編)を用い、史実を抽出検討して当該地域における藩学数学関係学科の動向や特色を明らかにし、『岡山女子短期大学紀要』第20号(平成9年刊)に掲載した。 2.津藩学有造館を中心とした数学関係学科の研究 近世の武士階級における数理能力とはどのような位置づけや学習形態が形成されていったのかを考察するための事例研究として、藤堂藩学有造館(三重県津市)を取りあげ、まずその数学関係学科(和算科)について設立された経緯、教育内容を検討した。次に洋算導入の契機となる長崎海軍伝習との関係、津藩士村田佐十郎及び柳楢悦の事績などを吟味し、当時の津藩が西洋軍事科学導入の一環として洋算教育を展開するに至ったことを明らかにした。そしてこの研究は中国四国教育学会第49回大会(平成9年11月8日:広島大学教育学部)にて口頭発表(題目;「近世津藩士の数学教育」)、中国四国教育学会編『教育学研究紀要』第43巻第1部(平成10年刊)に「近世津藩士の和洋数学教育」を掲載した。
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