本研究の目的は、障害幼児の主たるコミュニケーション手段が動作表現から音声言語へと変容していく過程において、動作表象形成と音声言語とがどう関連しているかを明らかにすることである。動作と音声が用いられる歌遊び『げんこつ山のたぬきさん』の場面を観察対象とした。障害児通園施設において歌遊び場面をビデオ収録し「初期音声言語行動の評価法(試案2)」(菅井邦明(1994))を用い、聴覚情報(音素材)や視覚情報(見本動作など)の提示条件を変化させながら、対象児の動作と音声の受信-発信状況を分析した。2年次目の今年度は障害児通園施設在籍児29名を対象とした。また過去に資料収集した約270事例もあわせて再分析の対象とした。 1年次目からの縦断的観察・分析を継続しながら、特徴的な事例の抽出と類型化に向けての詳細な分析を実施した。その結果、(1)自発的な音声発信中心の時期から、やがて音声発信せずに見本動作への注目と自発的な動作表現のみをするようなった事例、(2)単一の手拍子様動作を繰り返しているうちに、動作の変わり目で動作を停止し発声するようになった事例、(3)動作の動作表現を伴わないと音声発信できなくなって(歌えなくなって)しまう事例など、これまでの観察では見られなかった行動を示す事例を知り得た。これらの結果は通園施設職員に報告し、日常の保育場面との比較検討も併せて実施した。計画していた類型化は年度内には実施できず、今後の課題となった。
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