本年度の研究目標は、1) 開発援助計画実施のための文化人類学的調査方法の特定、2) それを我が国の開発援助政策に導入する際の課題の割り出し、3) 大学・大学院における開発人類学教育のカリキュラム整備の3点にあった。これらの項目に関する研究成果は次の通りである。 1) (1) 文献研究の結果、開発援助計画の中で文化人類学の貢献度が高い領域は、社会開発分野の住民組織づくりにあるという見通しを得た。(2) 住民組織づくりを理解するモデルとしてNorman Longらによるinterface論を参照し、ある組織の特徴は対面する他の組織次第で多様に変化するという方法論を重視した。これは開発援助におけるステークホールダーの相互関係を分析するモデルといえる。(3) この方法を用いて、私の既知のメキシコのマヤ系先住民族NGOの活動の多面的性格を分析し、日本民族学会(5月)、日本ラテンアメリカ学会(6月)、および国際マヤ学者会議(8月)にて研究発表を行った。 2) 国際協力事業団のプロジェクト報告書等を参照し、我が国の技術協力援助活動において1)で示した住民組織調査の導入可能性を検討した。現行では、予備調査および実施中のモニターリングにおいて、丁寧な住民組織調査が系統立てて行われていないという見通しを得た。 3) 地域住民組織の多面性を把握する調査方法は、開発援助政策を評価する多面的な視点の理解と不可分であるため、教育においては、開発問題を広範な視野から扱う教材を用意し、学生に比較させることが重要である。そのための教材(ビデオテープ等)を購入し、次年度以降の教育に活用する予定である。
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