本研究は、インドネシア国バリ島農村部における小規模織布産業の事例との比較を念頭に置いたうえで、京都・西陣の機業の研究をおこなうものである。そこでは、西陣における労働者(とくに女性)をとりまく文化的イデオロギーや労働をめぐる価値観を対象として調査を行い、さらに現実の労働状況が、伝統産業の近代化の過程のなかでいかなる変化を遂げてきたか、という問題を明らかにすることを目的としている。 当該研究遂行の第一段階として、まず本年度は、主として先行研究の整理をおこなうため、関連分野の二次資料などの検索およびそれらの収集などにあたった。その際にまず照準を合わせた点は、伝統的産業が技術革新を経て生産構造を変化させていく過程において、女性の労働がどのような評価をあたえられるか、という問題である。合わせて当該産業における女性労働の実態がどのように変化するか、という点をめぐっても注意を払った。これらの点について、文化人類学および女性学・ジェンダー研究などの分野において蓄積されてきた理論的研究および事例研究を広く検討した。 これらの文献研究に合わせて、京都西陣地区の近代史および機業への就労形態の歴史的変化に関する調査も同時におこなった。このために必要と考えられる二次資料として、種々の社会調査報告書のほか、西陣織りをめぐる広報、パンフレット類などの広範な検索、収集をおこなった。 本研究は、以上の文献的な調査で得られた知見を臨地調査により検証することを意図しており、そのための準備的な段階として、本年度中に若干の予備調査をおこなった。具体的には、次年度より開始する機業従事者およびその家族を対象とした対面調査の準備のため、少数の西陣機業関係者にたいして、非公式の聞き取りを実施したほか、実地での踏査や訪問活動など、若干の現地調査をおこなった。
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