本研究は在日韓国・朝鮮人の民族的アイデンティティの形成過程及び民族文化の変容の実態を文化人類学の視覚・方法によって明らかにすることを目的とする。今日、在日韓国・朝鮮人社会は世代を経ることによって、日本文化への同化が進行していると言われている。従来、1世たちが伝統的「民族文化」によって民族的アイデンティティを保持しようとした傾向とは異なって、日本社会との共生を目指すために、新たな民族的アイデンティティの拠り所を模索している2世・3世が出現している。これらは、従来のエスニシティ研究の視点では説明できない現象であり、「在日」の「民族文化」の変容も「日本文化」・「日本社会」との関係のなかで捉えるべきである。 今年度は、このような在日韓国・朝鮮人の民族的アイデンティティの多様化を「文化的側面」から捉えるための予備的な面接調査及び資料収集を集中的に行った。また、調査対象地である福岡県に居住する在日韓国・朝鮮人に対する面接調査を行っている。調査では、移住の経緯、親族の構成、経済状況、帰化の意志の有無などアンケート調査の基礎的データを収集している。特に、(1)親族間関係、(2)日本社会への適応過程、(3)民族文化残存度、(4)帰化・日本人との結婚に対する意識、(5)アイデンティティの形成過程などの項目を重点的に調べている。このような調査と平行して、欧米におけるマイノリティ研究の文献資料及び国内における在日韓国・朝鮮人関連文献資料、政府刊行物や統計資料を収集した。
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