本年度は、山口県下の「森神信仰」と鹿児島県薩摩半島のモイドン信仰を中心として、地域の歴史的なCONTEXT、伝承者の生活史、民間宗教者の介在の諸点に留意しつつ、民俗調査を実施し、収集した資料を整理した。その結果、山口県下の「森神信仰」に関しては、伝承再構成過程の具体的な検討をなし得た。以下、研究の進捗状況を報告する。 1).山口県下の「森神信仰」に関しては、豊浦郡豊浦町大河内集落、川棚集落において地域住民、日蓮宗宗教者、シャーマン的民間宗教者を対象として調査を実施した。大河内集落では、地域の歴史伝説が民間宗教者の介在により、地域住民の生活史上に生じた災厄の災因として位置づけられ、「森神」や屋敷神の伝承として再構成されて行く傾向が顕著であり、その再構成過程の具体的な検討を行い得た。川棚集落においては、昭和50年代まで地神盲僧がその祭祀を管掌していた「森神」を中心として、地神盲僧の死後、その祭祀に関わるようになったシャーマン的民間宗教者の成巫過程と「森神」にまつわる伝承の再構成過程の相関性について検討した。また、山口県萩市の農村部では、地神盲僧が堅牢地神や水神を祭祀する儀礼である地神祭、水神祭、虫送りの各儀礼を調査し、VTRによる映像記録を作成し、各々の儀礼において示される樹木のシンボリズムについて検討した。 2).鹿児島県薩摩半島のモイドンについては、指宿市を中心としてその現況を確認した。また、モイドンとの関連が指摘されているウッガンについても、開聞山麓の集落において調査を試みた。モイドンならびにウッガンについては、その伝承の再構成過程に関する調査を来年度も継続して行う予定である。 3).以上のほかに、従来から調査を継続していた山口県大津郡旧向津具村の「森神信仰」についての調査報告を『鹿大史学』誌上で行った。
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