今年度は、7月下旬から9月下旬にかけて、主な調査地である与那国島を中心に、沖縄県内にて現地調査を実施した。そしてその成果にもとづいて、いくつかの研究発表を行なうことができた。 9月には『民族学研究』(日本民族学会発行)にて論文(「伝承の正典化-沖縄・与那国島の事例より-」)を発表することができた。この論文では、与那国島に伝わる口承伝承が、過去100年間にどのように持続し、また変化してきたかということを、「沖縄学」の趨勢の変化という歴史的コンテクストのもとで論じた。この研究は今後さらに、マス・メディアを媒介とした、沖縄における民俗文化・大衆文化・学問文化の相互関係という問題として発展させていく予定である。 また、12月には、執筆・編集に関わった『与那国町史別巻I記録写真集与那国』(与那国町史編纂委員会事務局編、与那国町発行)が刊行された。沖縄では地域史づくりが非常に盛んであるが、こうした地域史編纂の作業への関わりなどを通して人々の歴史意識や文化的アイデンティティがどのように変容してきたのか、という問題についても考察していきたいと考えている。 今年度の調査にもとづくその他の成果として、3月に刊行される『史観』(早稲田大学史学会発行)に論文(「島民とは誰か-反民族誌的全体論のための予備的考察-」が掲載されることになっている。また、来年度には共著『沖縄のエイサ-』(沖縄市観光課・平和文化振興課市史編集室編、那覇出版刊)が刊行される予定である。
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