平成9年度から2年間にわたって、日本の「国境」に位置する与那国島の文化的動態について調査・研究をおこなってきた。平成10度はとくに交通、通信、マス・メディアの発展がどのように与那国島の文化的動態にかかわってきたのかという点、すなわち、広義の<コミュニケーション>の様式の発展が、どのように与那国の「伝統文化」の持続/変容にかかわってきたのかという点に問題を特化させて、調査・研究をおこなった。 その成果は拙著『〈民俗文化〉の現在-沖縄・与那国島の〈民俗〉へのまなざし-』(同成社、1999年刊行予定)によって明らかにする予定である。本書では、従来の文化人類学や民俗学において、現代の民俗社会に深く浸透している印刷メディアや電子メディアがしばしば軽視されてきたことを指摘したうえで、直接的・対面的なコミュニケーションの連鎖とその産物である〈民俗文化〉のほかに、(1)国や地方自治体によって認可される〈公的文化〉、(2)マス・メディアや商品によって媒介される〈大衆文化〉、そして(3)研究者・専門家によって生産・消費される〈学間文化〉という〈文化〉の理念型を設定し、現代の民俗社会においてはこれら4つの〈文化〉が相互に浸透し、複雑に絡み合いながら重層的に展開しているという〈文化〉モデルを提示した。 すなわち、〈民俗文化〉が、〈公的文化〉・〈大衆文化〉・〈学問文化〉といかなる関係を切り結んできたのか(あるいは切り結んでこなかったのか)という問題設定をとおして、〈民俗文化〉を動態的に把握しようとすることを試みた。具体的には、以上に述べた観点から、与那国島における民俗的知識、死者儀礼、口承伝承などを対象として取り上げて、これらの〈民俗文化〉が現在にいたるまでどのように持続/変容してきたのか、そのプロセスを明らかにした。
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