研究概要 |
改葬墓建立を伴うトバ・バタック族の複葬慣行は,土着宗教とキリスト教の混淆した宗教的特性と故地と移住地を結びつける父系制の親族原理を直截的に映し出すものと考えられる.本研究では,北スマトラのトバ・バタック村落(以下L村)における改葬墓の資料を系譜関係との対応に注目して分析する作業を通じて,改葬墓建立・分節のダイナミズムを描き出し,そのメカニズムを解明することを目的としている.本年度はそのための準備段階として,これまでの現地調査で収集していた資料に基づき,以下の二つの作業を進めた. 第一は,L村の集落形成史の再構成である.父系制のトバ・バタック社会ではタロンボと称される系譜の観念が発達し,L村内のどの集落がだれによって拓かれたかが明らかにされている.聞き取り調査の結果と1970年代におこなわれた先行研究での記述とを照らし合わせながら,L村の集落形成史と系譜との対応関係を確認した. 第二は,改葬墓調査票の作成である.これは上記の目的を達成するための分析に先立つ基礎的かつ核心的な作業である.L村に現存する全ての改葬墓について,a)改葬墓の写真,b)被改葬者の系図,c)改葬墓の位置を記した村落の略地図といった三種類の図像データと,被改葬者の移住歴や改葬墓建立・改葬儀礼に関する情報を記した文書データとを統合した調査票を作成した. 故地の村落における改葬墓の本格的な分析を進めるに先だち,北スマトラ州東岸部の開拓移住村における改葬墓をめぐって,故地から離れた場所に改葬墓を建立するメカニズムについて予備的な考察を試みた.
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