近世以降現代に至るまで、人々は等身大のモノから切り離された記号が流通し消費されるという社会の中で、まさに記号的な差異を消費し続けてきた。表現された異文化のイメージから当時の価値観を再構成することが当研究の目的である。 今年度は、アイヌに対して当時の和人が抱いていたイメージの解明の一環として、まず手始めに、好んで画題に用いられてきたアイヌ盛装(正装)風俗の分析を現存の資料を中心に行った。分析資料として、早稲田大学所蔵の土佐林コレクションの衣服70点のうち、特に儀礼活動のフォーマルウエアとして利用されていた伝承のあるチカルカルペ、チジリ、ルウンペ、カパラミプについて、形状、用布、材料、寸法、縫製方法、単位文様・装飾技法の観点からデータを収集した。また、サハリン州郷土博物館蔵の晴着としての来歴があるサハリンアイヌの衣服(テタラペと魚皮衣)を借用して、上記の項目を調査した。同時に北海道開拓記念館に最近寄贈された、アメリカ人宣教師W・カ-チスが収集したアイヌ衣服も調査し、あわせて撮影データをデジタル処理(プロフォトCD)化し、今後予定される正装図との対比の際の基礎資料とした。 一方、アイヌに対する和人のステレオタイプは、一定の期間を対象とした通事的なアプローチによってのみその変遷を追うことができる。したがって、いわゆる近世のアイヌ盛装風俗を描いた絵画史料として、早稲田大学図書館蔵の「蝦夷・樺太・山丹打込図」などを取り上げ、その図像学的研究を実施した。また、蝦夷をモチーフとした活動を繰り広げている近代画家の山内文夫にスポットをあて、その作品に込められているメッセージの検討を行った。次年度は、欧米及び日本の図像学の方法論を十分ふまえ、近代以降の作品も継続的に調査する。
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