近世以降現代に至るまで、人々は等身大のモノから切り離された記号が流通し、消費されるという社会の中で、まさに記号的な差異を消費し続けてきた.表現された異文化のイメージから、当時の価値観を再構成することが当研究の目的であった。 アイヌに対して、当時の和人が抱いていたイメージの解明の一環として、和人が蝦夷地の風俗を描いた18世紀以降の、いわゆるアイヌ絵を題材に、当時の服飾文化を中心とする生活様式の特徴と変遷の過程を明らかにした.あわせて、アイヌ絵を当時の社会情勢や和人のステレオタイプを復元する資料として活用した。また、アイヌ絵から推測される種々の生活様式の変化が、文献や博物館等に保存されている現存のアイヌ物質文化の研究から妥当かどうか、そしてその変化の背最には、どのような文化・社会的な要因が存在するかを考察した。 まず手始めに、画題に繰り返し用いられてきたアイヌ盛装(正装)表現の分析を絵画資料を中心に行った.分析資料として、一例を挙げるなら、山形県新庄ふるさと歴史センターに保管されている個人蔵の掛け軸「イトカラアイノの肖像」 (絹本著色)(落款「朗郷」香雪朱印)などを中心に図案、テキストおよび同一作家作品の比較検討を行った.また、画題として漆器が背景に好んで取り上げられる理由とその意穂を明らかにするために、漆と当時の和人・アイヌ社会との関係についての研究を進めた。その成果の一部は、他の研究者と連携しながら、単行本「うるし文化一漆器が語る籠海道の歴史-」 (1998年北海道開拓記念館発行 手塚薫・小林幸雄・水島朱記・舟山直治共著)のかたちで報告した。 一方、アイヌに対する和人のステレオタイプは、長期間のモニタリングアプローチによってのみ、その変遷を追うことができる。近世のアイヌ盛装風俗を描いた絵画史料の延長上に位置づけられ、それ自身もこうしたアイヌ風俗絵を利用する機会が多いアイヌを扱った古今東西の博物館等の展示会の広報用のポスター・ちらし類を取り上げ、図像学的研究を推進した.その成果の一部は、図書「ポスターとの対話一民族のイメージを探る-」(1998年5月手塚薫・出利葉浩司執筆)などで公表した.
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