今年度は、平成9年度に行った広範な民俗調査を受け、鹿児島県南種子町(種子島)・新潟県上越市・滋賀県余呉町の3ケ所に調査地を絞ってインテンシブな民俗調査を行った。聞き取り調査は、まず第一に水田稲作を中心とした生活全般を民俗誌的調査により明らかにし、その上で水田を舞台とした伝統的な水鳥猟の技術とその意義について調査した。 その結果、伝統的な水鳥猟を伝承する稲作地では、水田を舞台として「人一稲一鳥」の密な三者関係が形成されており、そうした関係性を基盤として稲作民による伝統的な水鳥猟が行われていたことがわかった。稲作民は、水田を単に米作の場としてだけではなく、重要な水鳥猟の場としても認識しており、水田やそれを取り巻く環境に関して積極的に保全と管理を行ってきた。また、稲作民とはいえ、水鳥の生態に関する豊富な民俗知識を持ち、それが水鳥猟にいかされていた。さらに、稲作民によるコアミ(突き網)を用いた伝統的な水鳥猟は、一見すると素朴な猟法ではあるが、銃猟にも負けないときにそれ以上の労働生産性をもっていたことがわかった。そのため、水鳥猟を伝承する稲作地では、一般に日常食における水鳥の重要度は高く、とくに冬場の動物性タンパク源として大きな意味を持っていたこともわかった。 また、そうした聞き取り調査に並行して、伝統的な水鳥猟具であるコアミ(突き網)を1点収集した。そうした民具資料を用いて、水鳥猟をめぐる民俗技術に関して民具学的な分析を行った。その結果、種子島のコアミは、形態だけでなく部分名称についても、宮崎県砂土原や新潟県大聖寺に伝承されるものと多くの共通点があることがわかった。
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