日本近世には高度の信用社会が形成され、明治以降の資本主義化の基盤を作った。しかしそれを支えた金融資本の実態については明らかではないため、今年はまず各地の金融業者に関する史料の掘り起こしと、その建てた地域的な貨幣相場について検討した。 その成果としては、第一に自治体史の検索と各地の現地調査により、金融資本・貨幣相場に関するデータを収集することができた。特に今年は大坂とその金融的影響の強い西日本、岡山・広島・紀伊田辺・摂津池田・奈良などでデータを収集した。これにより、大坂における本両替のデータベースを作成するとともに、西日本各地の城下町・在郷町・港町において17世紀以降両替・銭屋が広範に存在したこと、領主も藩札政策と関わって次第にそれを取り立てて利用するようになったことが明らかになった。 第二の成果は、民衆生活に最も影響のある銭と銀の交換相場について、時系列データを分析し、その動向について興味深い論点をみいだしたことである。すなわち西日本各地の銭相場は、18世紀前半には大坂の本両替・銭両替らが定める銭相場に強い影響力を受けるようになり、それを基準としながらも、それより銀安銭高に移行する。この原因は各地の銭相場が、単なる貨幣の需給関係によるものではなく、藩札の流通や民衆の生活維持、また大坂との商品取引関係を考慮にいれて人為的に定められる、いわば「通用」銭相場といわれるものであるためである。この点に関して、学会発表及び論文作成を行った。
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