研究概要 |
日本の近世社会においては、独自な信用経済が発達し、明治以降の資本主義化の一定の基盤をなした。昨年度は、主として自治体史の探査と各地の現地調査により、主として各地の金融資本のありかたについて明らかにし、その建てた銭相場について検討し、いわゆる「通用」銭相場の人為的形成について考察した。今年度はこれに関する論文を発表した。 またそれに引き続き、今年は,「通用」銭相場の動向と、諸藩の銀札や郡中議定などで定められる農業奉公人などの労賃の決定方法を検討した。具体的には、摂津国北部の在郷町池田周辺の豊島郡北在組村々および麻田藩を対象とした。結論として、この地域では民衆的「通用」銭相場が藩札相場を規定し、その逆ではにいこと、またこの地域に独自な労働力不足と、「通用」銭相場慣行の普及があいまって、民衆に有利な銀相場名目の賃銭規定が行われていることを確認した。これについては、『新修池田市史』第二巻に概要を執筆ずみで、近日刊行の予定である。 また昨年は行うことのできなかった東日本地域の金融業者および金銭相場について史料を収集し、時系列を作成中である。また江戸ー上方の商業関係に及ぼす金銀相場の動向についても、「通用」銭相場的な商人仲間独自の相場が存在し、近世後期に軋轢を生じている。しかし金を中心とする経済圏である東日本と、銀を中心とする経済圏である西日本の相場については、為替などの問題も含め、今後に残した問題が多い。これらのことについては、今後研究を更に進め論文を作成する予定である。
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