研究計画にもとづき、本年度は幕末期長州藩及び西南諸藩の海外留学生に焦点を当て調査を進めた。これは、当該期の海外留学は実質的には視察や洋行と未分化の状態であったが、その目的は国際的環境を踏まえた海外各国の事情探索(軍事科学技術・政治・文化などの導入、移植)であった点を注目したことによる。長州藩の海外留学生については、これまで、高杉晋作の上海視察、井上聞多・伊藤俊輔等5人の英国留学が研究対象となり、そのほかの留学生の動向については究明が等閑に付されてきた。『幕末明治・海外渡航者総覧』(柏書房、1992年)という画期的な成果にもかかわらず、未だ脱漏は否めない。この度の調査により、次に示す留学生の動向が明らかとなった。紙幅の都合上、留学(渡航)先・年月・氏名のみ記すに止める。万延元年1月(北条源蔵:遣米使節に随行)、文久元年4月(桂右衛門・山尾庸三:幕船亀田丸の露領巡航に便乗)、同年10月(杉徳輔:遣欧使節に随行)、文久2年4月(高杉晋作:幕使上海派遣に随行)、文久3年5月(井上聞多・伊藤俊輔・山尾庸三・遠藤謹・野村弥吉:英国留学)、慶応元年4月(山崎小三郎・南貞助・竹田庸次郎:英国留学)、慶応3年2月(毛利幾之進・福原五郎・河瀬安四郎・藤本盤造:英国留学)、同年7月(河北義二郎・天野清三郎・服部潜蔵・池田梁蔵・伊藤湊・遠藤貞一郎:英国留学、飯田吉次郎:和蘭留学)。2については、1と同様の視点から、佐賀藩11人、薩摩藩32人の留学生の動向を確認できた。本研究の成果の一部は、著書『幕末期長州藩洋学史の研究』(平成9年度科学研究費補助金「研究成果公開促進費」一般学術図書)に反映させた。
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