聖教類の調査を実施した。第一に、京都市随心院所蔵の『覚禅鈔』について、調書を採り、写真撮影を行った。京都市東寺観智院所蔵の『覚禅鈔』については、部分的に調書作成と閲覧を行った。これらの調査をもとに、データの整理を順次進めつつある。第二に、一切経(大蔵経)について、十二世紀以前の史料を把握すべく、“一切経年表"の作成にとりかかった。十二世紀末までについて、伝存状況を把握し、また古記録・古文書に見える一切経関係記事を博捜し、これら一件ずつを綱文化して年代順に配列した。稿本としてほぼ完成したので、公表の形式を考え、またこれを基本として論文作成を、次年度に予定している。第三に、近年開催の多い、聖教関係の展覧会を見学し、図録等の資料を集めた。 研究口頭発表と論文作成を行った。口頭発表は、日本史研究会(京都市)主催の特別研究会にて、「宗教史研究からみた東寺百合文書」と題して行った。主に中世の東寺を素材として、聖教と古文書の関係を論じ、双方を用いた歴史研究の有効性を提示した。口頭報告原稿を作成したので、これをもとにして次年度に論文として公表する。今年度に公表した論文は二篇である。「大乗戒主義仏教への基本視角」と「顕密主義仏教への基本視角」なるタイトルで、それぞれ古代・中世の仏教史を把握するための枠組みを提示し、自ら聖教類を積極的に用いて研究を進めるためのよりどころにした。
|