洞院家における儀式書編纂に関する研究は、厳密な史料批判を行いながら、多岐にわたる関係史料を一つ一つ検討することが肝要であり、これに基づいた研究成果の蓄積がまず求められる。現時点ではとりあえず昨年に続けて複数の大学・研究機関・図書館等に蔵される資料を精査することを中心に行い、基礎的作業の積み重ねに徹した。調査した箇所は、主として東京大学史料編纂所、九州大学、宮内庁書陵部、福岡市美術館、内閣文庫、尊経閣文庫、京都文化博物館などであり、関係史料を実見し、あわせてマイクロ・フイルムなど写真版を可能な限り入手した。成果は少なからずあったが、なかでも宮内庁書陵部で新たな史料(東山御文庫本)を調査する機会をもてたことが特筆される。京都東山御文庫の調査は、毎年秋に行われているが、平成10年度は叙位除目といった儀式書がその対象に含まれていたこともあり、これまで明確な結論がでていなかった公賢の『魚魯愚鈔』の巻数や内容について新たな知見を得ることができたことは幸いであった。これは東山御文庫蔵の書物全般に内容にとどまらず、歴史・国文の学会で注目されている同文庫の歴史的性格を検討するうえでも重要な意味をもつものであろう。『魚魯愚紗』については、書誌学的な視点から、系統の検討を行い、その伝来過程に関する成果を近いうちに公表したいと考えている。洞院家で編まれた儀式書は興味深く、その内容の豊富さと価値の高さを、これまで以上に痛感するとともに一方で課題の多さも認めざるをえない。『魚魯愚紗』や『拾芥抄』などはすでに翻刻されているが、これを再考するとともに、今後、他の儀式書も可能な限り翻刻し、検討材料として提供していくつもりでいる。あわせて朝儀の変遷と価値体系を考察する一助としたい。
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