研究課題について、本年は以下の二点に関する調査・研究を実施した。 (1)本課題は近世大和国における融通念仏信仰の展開の解明を目的としているが、それを明らかにする前提として、中世段階での同国における融通念仏信仰の実態について検討しておく必要がある。そのため、本年の一点目の作業として、中世期の融通念仏信仰の実態について調査・研究を実施した。具体的には先行研究の整理と史料収集(文献・金石文)をおこない、大和国西部においては融通念仏宗が浄土宗勢力を組織化していったことを明らかにした。その成果については「融通念仏宗の大和国における勢力伸張について」と題して論文化し、(仮題)『法明上人の研究』(大念佛寺、平成10年5月発行予定)に収録される予定である。 (2)大和国内における融通念仏宗寺院の動向を把握する必要から関係史料の収集を実施した。具体的には奈良県立奈良図書館に所蔵される明治初年の寺院明細帳の複写をおこなった。この作業については今後も継続する。また総本山大念佛寺に17世紀末〜18世紀前半の末寺帳が保管されていることを確認し、その整理をおこないながら、写真撮影も実施した。整理については今後も継続し、また内容検討についても今後の作業となるが、その末寺帳が同時期に作成されていることは元禄期における融通念仏宗の成立と密接な関係にあると推測され、したがって末寺自体もこの時期に出揃うのではないかという見通しを得た。 以上の作業を前提に、平成10年度は、(1)末寺寺院の成立の動向を把握する、(2)その背景を教団史のなかで位置づける、(3)さらにその背景と教団史を中近世移行期の民衆信仰の動向という側面から相対化する、という課題を設定し、研究を実施する予定である。
|