昨年度に収集した資料を対象として、今年度はその分析に入った。本研究の主要検討対象である洛陽出土青銅器は、まずその出土の仕方から、(1)正式な発掘によらないもの(いわゆる伝世品)、(2)正式な考古学的発掘によるもの、の二つに大別される。青銅器に付された銘文からは前者のが極めて大きな意味を持つため、まずこの(1)伝世品について文献的に徹底的な調査を行った。従来の研究が、ともすれば同じ銘文(ないし共通の要素)を基準として資料を集成し、その結果最も肝心である「洛陽出土」というデータが充分に確かめられてこなかったことに鑑み、本研究は次のような方法を採った。まず、各青銅器について「洛陽出土」というデータを確認する。その際、出土に関するデータの詳細度に応じて、そのデータの信頼性を考慮する。次に、該当する青銅器が初めて世に現れた年代を確認する。これは、具体的には、どういう著録にどういう形で掲載されたのか、銘文・器影(図・写真)は揃っていたか、さらに初出の際から出土データは明らかであったのかどうかについて、金文著録を中心として、戦前に公刊された雑誌類の零細な記事までも含め、可能な限り調査・検討を試みたのである。 その結果、従来「洛陽出土」とされてきた青銅器は、大半はひとまずその情報を信頼してよいことが判明したと同時に、不審な例さらにはおそらく誤りと判断される例も中にはいくつかあることが明らかとなった。また、青銅器を載せる著録について、その編集の方針や記載の信頼性など、留意すべき点がいくつか判明したことも収穫である(例えば、近年出版された『殷周金文集成』の掲げる出土データは信頼性がかなり低い、など)。こうして、実は最も基礎中の基礎である検討対象の確定という作業が、従来にない精度において達成されるという大きな成果が上げられたのである(近刊予定)。
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