本研究課題「19世紀アメリカにおける中国系移民排斥運動の歴史的研究」では、第一にアジアから最初に合衆国へと渡った中国人の移民現象を世界システム論の文脈の中に位置づけ、米中間の移民問題を巡る外交交渉の経過を詳細に検討することで、その問題の両国への国内政治への影響を検討した。また第二に、合衆国史の文脈で、南北戦争期を契機に新たに始まる人種融和の国民統合の過程で、中国人移民は一旦は国民統合の内的過程に組み込まれる対象となったが、運動主体であった共和党急進派の失墜とともにその国民統合の原理が崩壊し、さらには社会秩序維持の必要から「異質な他者」として中国系移民が排除・差別の対象化する歴史的過程を明らかにすることができた。具体的には、共和党系雑誌『ハーパーズ・ウィークリー』誌に掲載された中国系移民に関する図像史料を分析する事で、再建期における人種融和の国民統合の模索とその挫折の過程を実証的に明らかにし、合衆国のアジア系移民研究者の関連図書の翻訳『カミングマン』の出版とともに数本の雑誌論文に成果を発表することができた。日本においては皆無であった中国系移民集団の研究に貢献できたばかりでなく、また方法論においても図像史料を使った新たな移民研究と国民統合研究への道を開拓できたと考えている。今後の課題としては、この19世紀後半に始まる国民統合の過程で浮上する「白人性」の問題が、中国系移民排斥や移民政策とどのように関連しているのかより具体的に検証する作業が残された。
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