今年度はまず、昨年度収集した約50通の遺言書史料を分析し、データベース化した。それによると13世紀初は遺言書自体の数が少ないということもあるが、やはりサン・マルコ財務官は初期は不動産管理などの仕事はほとんど請け負っていないこと、13世紀前半は市民の遺言書に不動産を代々子孫に残そうと言う意図はあまり見られないということがはっきりした。また同時に、13世紀前半において家産の流れを規制していた法史料を綿密に検討したところ、ヴェネツィアでは相続や嫁資に対する女性の権利が比較的強いこと、不動産売買に関して独自の手続きを採用しているがわかった。そこでサン・マルコ財務官の発展と市民の家産管理の変化の関係を13世紀を通して考察する前段階として、まず13世紀前半のヴェネツィア社会と家産の流れを規制する法との関連について考察した。その結果、女性の法的地位の高さや財産権の大きさ、親族の権利を保護しながらも不動産市場の迅速化をめざしたヴェネツィア独自の不動産売買の諸手続、といったヴェネツィア都市法の特徴は、13世紀前半の海外発展やそれにともなう商人層の台頭・経済活動の活発化と重要な関係にある、ということが明らかになった。この内容は論文にまとめ『西洋史学』に投稿して採用決定、年末に入稿し現在印刷中である。当初の目的であるサン・マルコ財務官の発展と家産の関係についても来年度中に活字にする予定。
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