平成9年度においては、次の二つの研究目的を追求し、以下の成果を得た。 (1)ドイツにおいても従来研究の少なかった情報伝達(郵便)制度史に関する近年の研究動向に学び、広域情報伝達システムとしての帝国(神聖ローマ帝国)郵便の機能の成立と展開を、帝国国制との連関に留意しつつ、追究することに努めた。この研究目的は、京都大学人文科学研究所西洋部の共同研究「コミュニケーションの社会史」への参加(平成9年7月に研究報告「広域情報伝達システムの展開とThurn und Taxsis家」を行なった)を通じて追究された。よって研究成果は、平成10年秋を原稿提出の期限とする、前川和也編著『コミュニケーションの社会史(仮題)』(ミネルヴァ書房)に寄稿される予定である。 (2)帝国の統合における二つの原理、すなわち連邦制的原理と皇帝を頂点とするレ-エン制的原理のうち、近年ようやく研究成果が公表され始めた後者について、とりわけ帝国議会の主催者としての皇帝の位置づけに即した検討を進めた。具体的には、皇帝を頂点として、帝国議会の出席者(聖俗の諸侯、都市民などの諸身分)の間で設定されていた「席次」に注目し、慣習的にこれを定式化した「席次規定」を検討の対象にすえた。その結果、帝国諸身分の統治権を保障する、皇帝を中心・媒介とした関係性が把握された。以上については、二篇の研究論文が執筆され、掲載される予定(平成10年3月、5月)である。
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