研究概要 |
1.史料の調査・収集 11、12世紀の修道士が贖罪規定の普及と世俗教化のために行った活動に関する史料を以下の研究機関で調査、収集した。京都大学文学部図書館、東京大学図書館、明治大学図書館、上智大学中央図書館、上智大学神学部図書館、上智大学中世思想研究所 2.史料の整理、分析 (1)11、12世紀の修道士の伝記(聖人伝)、特にRobert d'Arbrissel,Bernard de Tiron,Vitalis de Savignyなどの伝記を分析することで修道士の活動を考察するとともに、伝記記述者の執筆意図すなわち司牧・教化的意図と方法を考察した。 (2)11、12世紀の修道士が記した教化文書、Robert d'Arbrissel,Bernard de Clairvaux,Caesarius von Heisterbachなどの書簡や奇跡物語を分析することで、修道士の教化活動の実態とその特色、影響について考察した。 3.史料から得られた知見 (1)11、12世紀には遍歴活動を行いながら信徒への説教など司牧・教化活動を行う修道士が出現した。彼らが多くの信徒や改革司教の司教の支持を得たこと、有力者による寄進や保護によって修道院を建て、活動を続け、司牧・教化活動の前線を担ったことが理解された。 (2)グレゴリウス改革を進める司教や教皇は、遍歴修道士たちの活動を支援しつつも、これを教皇を頂点とするヒエラルヒアの枠内におさめ、教皇主導型の世俗教化の前線基地としようとしたこと、修道士の活動のうち極端に刷新的な部分は削除されることになったことが理解された。 (3)修道士たちは説教、著作、書簡において多くの幻視、奇跡物語を執筆し、当時確立しつつあった贖罪理論を聖職者、修道士のみならず信徒に対してもわかりやすく教示していったことが理解された。 4.今後の課題 修道士の活動については概ね史料がそろったが、修道士の記した説教や逸話は膨大であり、今回の作業にとどまらず、なお調査対象を広げる必要がある。
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