日本の古墳時代の主要遺物として近年、甲冑の研究は活発化しつつあるが、甲冑は形態復元の困難な場合が多く、またデータ化に相当の労力を要することが多いため基礎的資料化が遅れている。そのために資料に基づく分析的研究よりも空論に陥った研究が見られることもある。そこで平成9年度の本研究では、このような研究状況を踏まえ、古墳時代甲冑の基礎的な型式学的研究、データ集積に基づく甲冑出土古墳の研究を進めることを目的とし、各地での資料調査に基づく資料集成に重点を置いた。 本年度は、まずはじめに東日本では稀な甲冑出土古墳が集中する長野県伊那地方の資料調査を行った。ここでは保存状況の良い甲冑を複数調査することができたことによって、甲冑製作技術に関する情報を多く得ることができた。またこれまでこの地域は馬具の出土が多いことで注目されていたが、甲冑においても豊富な出土内容をもつこの地域が古墳時代の重要な政治的拠点であったことをあらためて確認した。 つづいて、甲冑24領と最大の出土数で、最も代表的な甲冑出土古墳として知られる黒姫山古墳の甲冑実測調査に着手した。黒姫山古墳出土甲冑はこれまでも基礎資料として扱われさまざまな研究で引用されているが、すでに発掘調査から50年がたち、新たに今日的視点で見直すことが迫られている。本年度はまず、これまでもっとも多く研究で扱われてきた3号、5号、7号短甲から行った。その結果あらためてこれまで公表されていた実測図が現在および将来的な研究においては不備であることが確認された。 今後は引き続き黒姫山古墳出土甲冑を行うとともに、九州・北陸などを重要地域における基礎資料の調査を継続し、その上で製作技術を中心に型式学的分析を進め、同時に技術系譜の検討から型式変遷を追求して行きたい。
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