刷毛目の基礎実験として(1)〜(3)の実験を行い、民俗調査として(4)の調査を行った。 (1)刷毛目原体の磨耗実験を行い、使用回数によって単純に磨耗するのではなく、夏材と春材が交互に磨耗することを確認した。そのため、同一原体であっても条件が整えば時期差を想定できる場合もあるという見通しを得た。 (2)刷毛目原体である板材には2つの端面と表・裏があるため、同一原体でも4箇所で刷毛目調整ができる。その4箇所の木目パターンを実験で比較したところ、パターンがごく僅かにずれることを確認した。それは実験で使用した板材の木目が原体の長辺に対してやや斜めにずれているという木取りが原因であった。条件が整えば、同一原体の異なる部位を使用した場合でも、そのことを識別できる可能性があることを確認できた。来年度にはより多くの木取りパターンの原体で比較して確認する予定である。 (3)原材を打ち割ること、もしくは断ち切ることによって異なる2つの原体を製作できる。2つの木目パターンは双子となり、同一パターンであると想定される。その場合、同一原体と認識されるかどうかの実験を行い、サンプルを作成し、焼成した。現在はその資料の比較検討中であり、来年度にさらに多くの原体で比較する予定である。 (4)刷毛目調整の目的と効果を確認するため、福岡県柳川市・蒲地焼きの「掻き上げ」技法の調査を行った。火鉢・土風炉などの製作過程に板材で掻き上げるため、刷毛目ができる。ここでの刷毛目の目的は、(1)粘土紐接合痕を消す、すなわち、粘土紐の接合を強化すること、(2)器面に残る接合痕を平滑にすること、(3)掻き上げという言葉で分かるとおり、粘土を上に掻き上げるための調整であること、という3点であった。弥生土器や埴輪の刷毛目の目的を考える上で重要な調査結果である。
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