平成9年度では、遺存木棺材のデータの蓄積に重点を置いて作業を行った。その結果何らかのかたちで木棺材が遺存した実例97例を集成することができた。この集成作業は現在のところ古墳時代前期の資料を中心としたものであり、来年度も引き続き作業を継続する必要がある。 遺存木棺材および木棺痕跡の実見調査については、愛媛県松山市葉佐池古墳、福島県郡山市大安場古墳等で発掘調査中の良好な資料を調査することができた。また、奈良県天理市下池山古墳出土木棺は今年度保存処理が終了したこともあり、出土時の記録との照合作業を再度実施した。 遺存木棺材のデータ収集に際しては、材の樹種についても留意しているが、今年度は発掘調査を担当した黒塚古墳の木棺材の樹種に関連して、分析科学的分野からの貴重な知見を多く得ることができた。今後は、形態論的視点に加えて、木棺の形態や構造を一定程度規定する要素になったと考えられる材の選択の問題についても、いっそうの注意を払う必要を痛感する。 来年度はさらなるデータの蓄積に努めるとともに、これに実見調査にもとづく知見を加え、遺物論的な視点による古墳時代木棺の実態把握に努めたい。
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