今年度は、読者と言語表現のかかわりを中心とする自身のこれまでの論考を整備し、まとめて刊行した。その中では、本研究のねらいである、雑誌と読者の関係、小説とその掲載媒体とが相互に影響しあいつつ読者に作用する過程を、教育雑誌、総合雑誌を中心に詳細に検討した。その検討を通じて、読みの過程が、歴史的に諸々の表現によって作り上げられ、かつまた制約されている事態を明らかにした。 それに引き続き、今年度は雑誌「太陽」の周辺雑誌、特に1900年前後の実業雑誌、経済雑誌を中心とする調査を行った。この調査を通じて、これまで文学の領域ではほとんど問題となっていないジャンルである「立志小説」群と雑誌媒体との表現上の関連、読者との相互関係を明かすことにねらいをしぼることとなった。文学系の雑誌においては、そうした掲載小説はさほど問題になっていないが、経済雑誌、実業雑誌においては、実に多様で数多くのそうした小説群を生んでいる。特に、「立志小説」群は「殖民小説」というジャンルを生んで行くという点において、歴史的に極めて重要な表現上の特色を帯びていると思われる。それと同時に、これまでの教育学、社会学における学歴や出世観に関する研究成果にも表現レベルの分析を通じて貢献できることとなる。この調査結果を来年度中に発表するようまとめるとともに、重要な資料についてのデータベース化を並行して行いつつある。また、それらを公開するための計算機をサーバーとして運用開始している。
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