1.野田神社所蔵資料の分析と関連資料の収集、並びにデータベースの作成 野田神社所蔵資料中の写本類の翻刻を(特に囃子伝書と間狂言本を中心に)行い、内容を検討した。検討にあたっては、法政大学能楽研究所、山口県文書館(市立米沢図書館・馬瀬狂言)等の資料を調査・収集し、翻刻・分析を行った。囃子伝書は(収集資料を含む)多くが未翻刻のため、データベースを作成し、比較分析の円滑化を図った。その結果、『太鼓秘抄』四冊の内一冊が永禄11年奥書の国広伝書、残り三冊が同12年奥書の国広伝書二種の内容と一致。『太鼓手之図』は、太鼓観世家に国広自筆本地、異本の所蔵を確認した。『的笛抄』の上冊は、『笛遊舞集』等に共通の記事が多く、下冊は岩瀬文庫蔵『全笛集』の内容と一致した。各伝書とも中世後期囃子伝書として重要な国広伝書であり、また細川幽斎の相伝伝書として永青文庫所蔵資料に次ぐものであることを確認した。これらの内容は、従来の資料と重なる面も多い。しかし本資料は相伝のあり方や関係した人物、伝本系統において新たな面も有するので、更にその位置づけを探る。間狂言台本については、流派の位置づけを行うべく、影印・翻刻された関連資料を始め、鷺流系統の山口県文書館や市立米沢図書館の所蔵資料との比較を行った。毛利家抱えの狂言師が鷺・大蔵両流であったことの反映か、実践女子大学所蔵資料等の鷺流系統の間狂言台本に類似する箇所と大蔵流に近い箇所が混在しており、更に検討を加える必要がある。今後はこれらを含めた野田神社所蔵資料全体の位置づけを追究すると共に、関連資料のデータベース化とその充実を図る。 2.本資料に関わる人物の研究ー細川幽斎を中心に 上記の囃子伝書の相伝に関わる細川幽斎と中村小四郎について、『綿考輯録』などの細川家関係資料、『上井覚兼日記』など同時代の日記類、当時の上演記録の調査を行ない、本資料が『四座役者目録』の記事に見える両人の関係を裏付け、更に幽斎と手猿楽役者との深い関わりを示す一資料であることを明らかにした。
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