日本の近代文学および芸評論を調査対象にして、文学的言説のなかでなされた日本文化のアイデンティティ構築を調査した。着眼点は、1)欧米の「近代文明」に対する対応、2)朝鮮、中国、インドなどアジア文化を日本は近代以後どのように定義しなおしたか、3)それらの対して日本の近代化の変動をどのように位置付けたか、である。 本年度はとくに、それらの言説が教育の場で普及する際の強調点を調査した。戦後の教科書検定制度以後の高校国語教科書に採用された文学史的言説は、西欧文学の影響と消化、反発、伝統的な要素の残存や見直しなど、外国と自国との接点を強調することによって、全体的な見取り図をつくってる。占領期・60年代・70年代と民主化=近代化=西洋志向の流れから国民文字、伝統・民衆文化の強調へと移行している。70年代に近付くと、国家間、東西文花間の比較よりも、私的な文学受容に向かい文学は、社会・歴史から、切り離されていく傾向が見られた。
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