本研究は、江戸期の初期草双紙の作品を中心として、当時の児童を取り巻く諸文化の様相をマルチメディア化し、近代に至る過程を追うことによって、初期草双紙の果たした役割について考察するものである。 本年度の研究は、まず初期草双紙を概観し、その役割を分析するため、桃太郎物の作品及び富川房信の作品を収集した。これらの書誌事項は、パソコンを用いて整理し、一部の作品については、作品をスキャナやビデオによって図像として取り込み、デジタルデータ化を行った。 次に、桃太郎物については、書承による昔話の受容という観点を交えて、江戸中期から幕末までの時代的な流れの中で代表的な作品を選び、内容の比較検討を行った。その結果明らかになったことは、赤本では、素朴な記述で天真爛漫な桃太郎が描かれていたのに対し、寛政の改革以降の作品では、孝行で勤勉な桃太郎が現れ始めたことである。この現象は、草双紙が児童にとって単なる娯楽としての読物に終わらず、時代が下るに従って、教訓的な読物となっていったことを示唆するものと思われる。また富川房信作品では、署名の形態などからその作品の刊行年代がある程度推測可能であり、さらに作品の版元の一覧からは、再版の流れの一端が明らかになった。 これらの成果は、個人的なホーム・ページを作成し、インターネット上に公開すべく準備を進めている。桃太郎の受容については、特に画像データで時代的な流れが一目で概観できるように作成したい。また周辺の他ジャンル作品や演劇資料も参照できるようにする予定である。但し、資料の所蔵権等の問題があるので、慎重に取り組みたい。
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