1.北京の日刊紙『京報副刊』(マイクロフィルム)を入手し、その総目次をデータベース化した。これにより従来日本では完全な形で見ることのできなかった『京報副刊』の利用が格段に便利になり、五四時期の副刊の研究に貢献するところは大きいと確信する。 2.上海の日刊紙『時事新報』の副刊『学燈』『工商之友』等(マイクロフィルム、五四時期のみ)、及び湖南省長沙の日刊紙『長沙大公報』(影印版)を入手し、その読者層のネットワークを分析するためのデータを系統的に収集した。 3.上記1.2.の作業を行うに際しては、とりわけ無名の読者による投稿に焦点を当て、読者の地域的分布や年齢層に関するデータを蓄積することに努めた。その過程で、上海と北京、その中間に位置する長沙の三紙を比較した場合、特に読者=投稿者の地域的分布という点で偏差があること、しかし同時に地域差を超えた交流も存在することが浮かび上がってきた。なかでも五四時期に雨後の筍のように誕生した有名無名の文学結社に関するデータの分析を通じて、文学ないしメディアを中心として結集した青年学生のサークル(いわば読者共同体)において、伝統的な同郷=地域的紐帯が根強く関与している点と、同時に、新聞という新メディアを通じて伝統的な枠には収まりきらない新しいネットワークが積極的に利用されている点が明らかになってきた。 4.以上、副刊とその読者層の検討を通じて、近代的読書空間の出現とそこにおけるメディアと人的結合との聯関に関する重層的・複合的な分析枠組みの設定の必要性を強く認識させられ、今後の研究の方向性と資料的基礎が固められた。来年度引き続きより多くのデータを集積・検討し、成果をまとめて公表することを課題としたい。
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