既に交付申請書において示したように、本研究の本年度の実施計画は、本研究の基礎となる理論的な研究を他動性の観点からは日本語のはた迷惑の受身を、主観性の観点からはモダリティを、それぞれ例にとって行い、それに加えてデータベース構築法の開拓を試みることであった。 まず、本研究の基礎となる理論的な研究に関しては、日本語のはた迷惑の受身に見られる他動性の拡張とそれを可能にする認知モデルについての理論的考察を行い、その中間報告としてアムステルダムで開催された第5回国際認知言語学会の場を借りてその内容を発表した。この内容は一部拡充して論文にし、現在投稿中である。モダリティに関しては、カリフォルニア大学サンディエゴ校R.W.Langacker教授とともにCLC言語学集中セミナーにおいて日本語と英語のモダリティの比較の講義を行い、この内容の要旨は雑誌『言語』1997年12月号に「国語学と認知言語学との対話」というタイトルで掲載されている。また、英語などの言語モダリティ把握に不可欠なdynamic evolutionary modelがより一般的に他動性の拡張に関与するものであることの指摘も含めて、望ましい理論モデルの検討として、第22回関西言語学会でのシンポジウムにおいて「言語の動態のモデルとしてのdynamic usage-based model」という題目で発表を行った。 次に、データベース構築法の検討については、かつてのように光学文字読み取り機で雑誌から読み込んでデータをためることに比べれば、市販されている文字情報を含むCD-ROMからテキストデータを抽出することの方がはるかに効率的であるが、製造者による様々な保護装置のためにそれが必ずしも容易ではなく、さらに、近年コーパスのサイズが飛躍的に大きなものとなってきていて、データベースとして通用する規模自体も大きなものとなってきていることも考えあわせると、既に存在する大規模コーパスの利用を考える方が今後を考えると現実的と思われる面もあることが分かった。
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