本年度は主に、ロマン主義の前段階を成す十七・十八世紀の英国思想の中において、自然科学思想が持つ意味を探る作業を行った。 まず、ニュートン以降の近代自然科学を構成する思想的要素として、新プラトン主義哲学が深く関与していることを、十七世紀のケンブリッジ派プラトン主義哲学者の著作と、当時の科学者の思想を関連付けることにより、研究した。特に、ケンブリッジ派の哲学者である、ヘンリー・モアとトマス・バ-ネットが、ニュートン派の物理学者と数学者の思想に深く関係していることを確認し、さらに、同じケンブリッジ派の思想家ラルフ・カドワ-スの神秘主義思想が、自然科学思想の一部とキリスト教的黙示録思想を結び付ける役割を果たしていることを解明した。 次に、近代自然科学における哲学的思想性が最も明瞭に表われている分野として、十八世紀英国の生理学、心理学、生物学に関わる科学者の思想を取り上げ、同時代における受容状況を研究した。その結果、とりわけディビッド・ハートリーの著作に代表される生理学的心理学の理論は、その思想的裏付として新プラトン主義に由来するキリスト教的千年王国思想を、背後に持っていたこと、そしてこの思想性故に、十八世紀末の革命運動を巡る政治的急進主義の中で、急進主義思想家の進歩思想を支える化学的根拠を提供したことが明らかとなった。 今回の研究で得られて知見は、自然科学思想と十八世紀末のロマン主義黎明期の文学思想を関係づけた論文の中で、発表した。
|