○平成9年5月、日本ヘミングウェイ協会全国大会におけるシンポジウム「ヘミングウェイ研究とジェンダー」にパネリストとして参加し、『老人と海』を取り上げて研究発表を行った。発表では、まず、作品の叙情的な文体を女性的エクリチュールのそれとして捉え得ることを、エクリチュール・フェミニンの概念を援用しながら検証した。さらに、作品には主に老人と少年しか登場しない(成人男性が登場しない)ことに注目し、このことと、作品が女性的エクリチュールであるといえることとの関連性を探った。老人や少年が、年齢という生物的理由によって「男性性」を奪われ、女性同様、社会の中心から周縁化された立場に置かれた存在であることを踏まえ、「年齢」のテーマはジェンダーの(あるいはフェニズムの)問題として考えるべきであるという認識に至った。 ○上記の研究発表を踏まえ、『老人と海』の舞台がカリブ海であることから、ポストコロニアルの視点を導入してさらに作品を検討した。エイギング、コロニアリズム、ジェンダーという社会的抑圧コードが互いにいかに深く結び付いているかを構造的に解明することを目的とした。この成果は来年度発表予定である。 ○ボストンのJFK図書館において『エデンの園』のマニュスクリプトを調査し、約500ページ分をファイルとして保存した。 ○セクシュアリティの研究に関しては、ウィラ・キャザ-の作品におけるレズビアニズムの表象の問題を軸に、セクシュアル・アイデンティティの問題を考察した論文を、発表予定(平成10年3月)である。
|