研究概要 |
奴隷貿易やイギリス帝国主義といった側面に注目した英文学研究が18世紀とヴィクトリア朝期の英文学に関してはさまざまな展開を見せているのとは対照的に,ロマン派といわれる時期の諸作品を対象とした研究は、質的にも量的にも十分とは言いがたい。さまざまな批評理論が展開されるなかで、1800年前後に極めて活発に議論された奴隷制度に関する言説に注目した研究が有意義なのは、これまでの批評理論が別個に扱ってきたいっけん異質とおもわれるさまざまな問題を同時に、かつ重層的に論じることが可能になるからである。 たとえば、こうした視点に立った分析により、「地域小説」の先駆者といわれるアングロ・アイリッシュの作家、マライア・エッジワ-スの小説『不在地主』や短編「恩を知る黒人」と、当時の国会議事録に記録される奴隷解放に関する議論、とくに、保守派を代表する論客エドマンド・バ-クの主張との類似性が明らかになる。そして、この類似性は、フランス革命が連合王国にもたらした影響、アイルランド独立運動、さらに、メアリ・ウルストンクラフトに代表される当時の女性解放運動との双方向的影響関係を検証するための突破口となる。 来年度は、本年度の研究を継続するとともに、当科研費申請時の研究計画にそって、奴隷解放問題に関連する言説に注目しながらメアリ・ウルストンクラフト、ジェイムズ・ホッグ、トマス・ペイン、そしてジョン・ゴルトらの作品分析を行い、その成果を論文にまとめる予定である。
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