1 本研究は、オーストラリア(以下、豪)の文学に表れた日本人像について、時代別にその変遷を追うことによって、豪文学史の一面を明らかにすると共に、19世紀以降のアジア・太平洋地域ポストコロニアル文学の中で、日本と日本人が占める位置を明らかにする試みである。本年度は第2次大戦終戦までの作品を中心に、キャンベラでの資料収集と豪研究者によるレヴューと、論文執筆を行った。 2 今年度の研究で以下の点が明らかになった。 (1) 9年度の研究にみられた、日本を仮想敵とする新しいジャンル「侵賂小説」が日本との開戦で現実となったとき、豪の戦争文学に、以前の英雄的・扇動的なものからより現実味を帯びた人間的、写実的なものに移行した作品が多く見られるようになる。 (2) それまで直接的な接触がほとんどなく、豪文学の日本や日本人については、全体としての印象が先行していたが、直接の接触により、敵ではあれ個人、人間としての描写が認められるようになり、作品群に多様性を与えた。 3 本年度は、次頁に記した論文執筆に加え、以下の通りの口頭発表を行った。 「オーストラリア文学に見る日本人像」、国際理解セミナー(平成11年2月10日、府中市生涯教育センター)
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