本研究の目的は、被抑圧の側から提起され、近年展開を見た、クィア・セオリー、ジェンダーおよびセクシュアリティの問題を現代アメリカ演劇および舞台芸術における理論と実践の両面から検証し、文化に表象される権力と支配の構造と、ポリティクスという意味における政治意識と文化に対する意識を考察することで、演劇・舞台芸術における新たな表象文化論の方向性を探ることにある。 このため本年度は、昨年度に引き続いて、前述のテーマに関する研究書、学術雑誌、関係資料等を収集、通読する作業を継続し、フェミニズムおよびジェンダー研究に焦点を当てた昨年度の研究をふまえつつ、さらに、芸術活動と公的助成金の関係、それに関わる身体のポリティクスについてを意識しつつ調査・研究を行った。アメリカ国内での芸術活動を取り巻く状況は、この十年ほどの間に顕著に大きく変化している。1980年代後半以降、NEA(国家芸術基金)の分配をめぐってさまざまな論議がなされ、この基金の制度自体も変化しつつある。カレン・フィンレーら、おもにセクシュアリティの問題を扱うパフォーマンスア-ティストが基金の交付を取り消され、問題が表面化してから約十年が経過した。この事件が間接的・直接的に芸術のあり方に与えた影響は大きく、それにより、この十年間に芸術に見られる文化ポリティクスのあり方、どのように変化したかを把握・総括することは重要であると考えられる。そこで現在、舞台芸術部門を中心に、NEAの過去十年の変化を丹念に追跡し、これを取り巻く芸術環境の変化をまとめる作業を進行中である。また学問的な分野においても、本研究の課題である、文化とポリティクスの諸問題が、現在のアメリカの舞台芸術環境を大きく左右し、また複雑化させているするものであることが明らかになりつつあり、さらに動向を見守ってゆきたい。
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