1 本年度の前半は、モダンダンスの発生と、同時代の女性像を巨視的な視点から関連付けることを目指した。「女性の自由」を掲げたモダンダンスは、服装改革運動、職業婦人の増加などの女性解放の動きと連動している。一方で、女性の美徳を重視し、「癒し手としての女性」を求めた身体分化運動やワンダーフォーゲル運動とも深く関わっていた。また、ラスカ-=シューラーと舞踊との関連を考える際にも、この二つの潮流が重要であり、特にベルリンのサークル「新しい共同体」の重要性が明らかになった。以上の結果をまとめ、平成9年6月、日本独文学会主催のシンポジウムで、「世紀転換期における舞踊と女性像」という題で発表を行った。2 本年度の後半は、ラスカ-=シューラーと舞踊の関連を考察した。同年8月から9月にかけては、ケルンのダンス資料館、ヴッパーダールのエルゼ・ラスカ-=シューラー資料館において、資料収集・分析を行った。その結果、1899年から1902年頃の詩人にとって、舞踊は芸術・私生活の両面でユートピア的なもの象徴であることが明らかになった。論文「マイナデスの乱舞-エルゼ・ラスカ-=シューラーの詩『秘儀』をめぐって-」は、第一詩集『冥府の河』(1901)の分析を中心に、舞踊と文学の関係を探ったものである。また1902年頃、ラスカ-=シューラーは、夫ヘルヴァルト・ヴァルデンらとともに「新しい共同体」から離脱する。第二詩集『聖別の日』(1905)以降、舞踊は、むしろ世界からの疎外や、現実への盲目を表現するようになる。論文「踊る肉体から輝く精神へ-エルゼ・ラスカ-=シューラーにおける身体像の変貌」では、第二詩集を中心に、舞踊像の変化を扱った。また上記二本の論文をまとめた形で論文“Tanz als poetologisches Modell bei Else Lasker-Schuler"(エルゼ・ラスカ-=シューラーにおける詩学的モデルとしての舞踊)を執筆した。
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